あれから1年 ルディ・ダーネンス

 昨年のワールドカップ第2戦のツール・ド・フランドルで、ルディ・ダーネンスが事故に遭った事を、私はレース後、知らされた。早朝、テレビ解説の為スタート地点に向かう途中に、高速道路で事故にあったと言うのだ。でもその時、自分としてはあまり実感がわかなかった。何が起こったのかよく分からなかったのである。

 ルディ・ダーネンスと言えば、90年に世界選手権が宇都宮で行われた時に、優勝したベルギーの選手である。当時、私は、家族と一緒にキャンプをしながら、世界戦のレースを楽しんでいたので、それなりに記憶に残っていた。彼は、世界チャンピョンになった後、成績が振るわず、92年に心臓病が原因で引退していた。

 そのダーネンスさんに、去年のツール・デ・フランドルの前日、私がプレスカードをもらいにブリュージュへ行った時、初めてお会いした。

 実を言うと、知り合いの計らいで、ツール・デ・フランドルの3日後に行われるゲント〜ベベルゲムでダーネンスさんの運転する車に、私も同乗させてもらう事になっていたのである。こんなチャンスはなかなかないだろうから、ぜひこの機会に、世界戦での話とか、引退後の話を聞こうと楽しみだった。

 そう言う訳で、ダーネンスさんに挨拶をしに行ったのである。すらっと背が高く、細身のいかにも紳士的な印象を持った人だった。いきなり、「水曜日に、僕の車に乗るんだよね。」と話しかけられた。「宇都宮の世界戦で優勝したんですよね。」と言ったら、にこにこしながら、「そうだよ。宇都宮で世界チャンピョンになったんだ。」と答えてくれた。とても気さくな感じの人だった。「今度、いろいろお話聞かせてください。」と言って、握手した後、ダーネンスさんは、「それじゃ、また水曜日に。」と言って去っていった。ほんのちょっと言葉を交わしただけだった。

そして、その次の日、悲劇は起こった。

約束の水曜日、待ちに待っていた水曜日には、もう二度とダーネンスさんに会う事はできなかったのである。

4月6日の月曜日、37歳の誕生日を目前に、この世を去ったルディ・ダーネンス。

ベージュのトレンチコートを着たすらりとした後ろ姿が、今でも目に焼き付いている。

 

99年4月2日作成


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