どうなるCYCLISME?

 5月7日、自転車界にまた新たなドーピングの問題が起きた。フランスで、昨年から大々的に行われている政治的アンチドーピングの成果と言っていいだろう。「強くなれるという薬」を裏で供給していたとされる2人の人物が、逮捕されたのだ。この2人は仲が良く、自転車界に関わっており、一人はサインツという偽者医師で、もう一人はラブロという弁護士である。

 サインツの方は、60年代のアマ選手で、選手を辞めた後、Fagor−MercierやGan−Mercierで助監督などもやったりして、30年間ほど自転車界で、幅を利かせていた。フランスでは、ここ何年か前から流行っているホメオパシー(同毒治療)を行っていたのだが、それが本当にホメオパシーだったかは、今のところ定かでない。と言うのも、サインツは、医者の勉強はしていたものの、医師免許はなかったのだ。まさしく、闇の医師だった。

 一方ラブロは、ビランクやラ・フランセーズ・デジュの弁護士を担当していて、大の自転車ファン。12年ほど前から自転車界に関わっており、妻が薬剤師をしている。

 この逮捕で、家宅捜査された事務所などから、ドーピング薬物や莫大な現金、スポーツ選手のアドレス、FAXのやり取りなどが押収され、FAXなどでやりとりがされていた15人ほど(バンデンブルック、ゴーモン、MTBのM・マルティネスの従兄弟、サッカー選手など)が、パリに呼ばれ事情聴取を受けた。

 11日午前に、バンデンブルックの記者会見が行われ、「サインツから、天然のホメオパシー(同毒治療の薬)だと言われ、もらっていたけれど、今となればそれが何だったのか、疑わしい。それが何であるのか、早く分析結果を知りたい。」と語った。
 バンデンブルックとゴーモンは、真実が明らかにされるまで、チーム(コフィディス)から、レース出場停止処分を言い渡された。

 ビランクもこの件で、パリに呼ばれ、事情聴取を受けた。サインツからホメオパシーをもらっていた事は認めたが、ドーピング薬物使用に関しては、依然否定している。

 スポーツの裏の世界が暴かれつつあるフランス。

 今年から、フランスでは、蔓延する現在のドーピング事情を改善する為に、年4回の身体検査が義務づけられ、実施されている。フランスは国家をあげて、徹底的にドーピングに反対しているが、他の国はと言うと以外に消極的である。レース関係者も、表面的にはアンチドーピングだが、実際はそうでもない。

 例えば、5月のはじめに行われた“ダンケルクの4日間レース”での出来事。第2ステージ、75選手が30分遅れでゴールしたが、この日設定されていたUCI規則のレース到着時間を越えていたので、時間外とみなされた。普通なら、時間外の選手は、棄権処分になるのだが、各選手200スイスフランの罰金をUCIに払う事で、敗者復活させてあげようと言うものだった。

 この日のレースの場合、40人近くの先頭集団には、それぞれのチームのメンバーが入っていて、必死で追う必要もなかったし、大半の選手が遅れたのは、最初の20%もある上り坂で起きた落車で、100mほど歩かなければならず、ここでかなりのロスタイムを取ったため、走る気をちょっと失ったのが原因である。

 そんな出来事があったにもかかわらず、UCIの審査員は、規則と言う事で選手たちを時間外とみなし、レースを楽しめる為に罰金を払わせて、選手たちを走らせてあげようというものだった。

 これに対し、選手たちは第3ステージのスタートするのを拒否し、怒りをあらわにした。「アンチドーピングの為に、超人的なパフォーマンスをするのに反対する一方で、あまり速く走らなかったら罰されるのは、納得いかない!!」「どうして、罰金を払ってまで、走らなきゃならないんだ。」「UCI規定の時間オーバーの設定基準にも問題があるんではないか?なぜ選手ばかりが・・・。」と。

 この結果、UCI役員も考えを変え、遅れた選手の各チームから300スイスフランの罰金を取る事で、騒ぎはおさまった。

 選手たちが怒る理由もわかるだろう。

 昨年のドーピングが発覚してから変わった事と言えば、ドーピングチェックが厳しくなったぐらいである。レースの運営方法や、規則は何一つ変わってないのである。本当の原因は、選手のモラルだけなのだろうか?

 今、ヨーロッパの自転車界、特にフランスは、厳しい状況に陥っている。ドーピングから抜け出したいけど抜け出せない。

 去年のツールで、ドーピング使用を告白したクリストフ・モローがダンケルクの4日間レースに参加していた。私は、95年にジャパンカップに来た時から、彼を知っているのだが、以前はいつもツンとした鼻高々い感じの人だったのに、この間見た彼は、一般の人と気軽に話し、本当にプロとして再び走れることに喜びを感じている様子が見られた。こういう選手が、いっぱい出てきてくれればいいと思う。

 ドーピング問題を耳にするのは、自転車ファンの私としては、とても辛いのだけれど、ドーピングが蔓延しているのは事実なのだから、この問題も冷静に受け止めなくてはいけないと思う。

 今のところ自転車の話しかされていないが、今度の件は他のスポーツにも影響しそうだ。日本ではどのように報道されるかは分からないが、自転車だけにスポットが当てられるのはどうかと思う。

 だって、ドーピング検査で、血液検査が行われているスポーツは、スキー競技ぐらいなのに、さらに年4回も調べられて、可哀相に、自転車選手達は、スポーツ界のモルモット状態なのだから。

 

 

99年5月18日作成


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